大学教員インタビュー

飯村 史恵准教授

飯村 史恵准教授
アドボカシー(権利擁護)、福祉マネジメント

研究内容

私は大学で社会福祉を学び、地方自治体の福祉政策への住民参加をテーマに卒業論文を執筆し、東京都の社会福祉協議会(以下社協)に就職しました。当時の社会福祉事業法第74条第1項には、都道府県社協業務として「社会福祉を目的とする事業に関する調査」が掲げられており、実態把握からニーズ充足のしくみを創り上げていく組織に、興味を覚えたためです。幸いなことに、初年度から高齢者無料職業紹介所に配属され、働く単身高齢女性の実態調査を実施しました。大都市東京で、高齢期に就労を余儀なくされる女性には厳しい現実があり、単身女性の就労動機と家賃負担の関連に着目したこの誠にささやかな調査は、幾人かの研究者や地方自治体の女性センター等にも注目され、充実感を得ました。以来、数々の事業-コンピュータを活用した福祉情報、権利擁護センター、福祉サービス第三者評価等、本邦初の先駆的事業を含む-に20年以上従事し、在職中に大学院にも学び、今日に至るまで、私の細々とした研究生活が続いています。

現在の主要研究テーマとして、社協の役割・機能に関するものと、認知症、知的・精神障害者等、判断能力が不十分とされてきた人々のアドボカシー(権利擁護)に関わるものが挙げられます。

社協は戦後組織化されましたが、法律の条文も少なく、規定そのものが曖昧なまま今日に至っています。社会福祉業界関係者には一定の理解がありますが、地域住民の周知度も必ずしも高くありません。これらが何に起因しているのか、外側から見ただけでは分かり難い社協の実態を、法学者と共同して明確化し、今後を展望する研究に取り組みました(法学系科研費研究)。

法学は洗練された学問領域であり、フレームや用語の厳密な使用には定評があります。共同研究会のディスカッションでは、何が根拠となるのか、社協の事業はどのようなプロセスで決定されるのか、根拠規定が不明確なのに何故共通理解と言えるのか等々、毎回厳しい口頭試問を受けているような雰囲気がありましたが、私自身が法学のモノの見方や着眼点を学び、徐々に学際研究の重要性を理解できるようになりました。これらの研究成果は、2015年に出版物として上梓することができました。橋本宏子・飯村史恵・井上匡子編著(2015)『社会福祉協議会の実態と展望:法学・社会福祉学の観点から』日本評論社本書は、社会保障法のみならず、行政法、法哲学等多岐に渡る専門領域の研究者と共に社協を研究した、おそらく初めての試みであったと思われます。私の執筆部分においては、社協の成り立ちから今日までを会員組織と住民参加をキーワードとして辿ることにより、社協組織の「民間性」や「公共性」の曖昧な概念と、社協ゆえに取り組める活動の幅広さについて論述しました。社協は、時代の変化に応じて、担う活動や役割が、次々と変化し続けていく組織であると言えます。このような状況が、実態理解の難しさに繋がっている側面は否定できませんが、一人ひとりの当事者の声に真摯に向き合い、地域住民と共に活動を展開すべく、社協の固有性を今後も追求していきたいと考えています。

次にアドボカシー(権利擁護)関係の研究です。

1999年に民法が改正され、成年後見制度が誕生した際、私は権利擁護センターに勤務しており、この制度の最も近くにいた社協職員の一人でした。以来、この制度及びこれを補完する日常生活自立支援事業を、社会福祉/法律専門職等が、「権利擁護のしくみ」と語ることに、違和感を覚えるようになりました。この制度の根底には、判断能力が不十分な人々をカテゴリー化し、他の人々と一線を画す人間観があり、私有財産の管理能力を公共的な福祉サービスの利用等に援用しており、何よりも本人の権利を制限し、代替として法的保護者に権限を付与するしくみであるためです。

近代社会に端を発するこうした代行決定のしくみが、国連障害者権利条約で「法の下の平等」に反すると指摘されたことは、記憶に新しいところです。しかし日本では、高齢社会に不可欠の制度として、さらに期待が高まっています。こうした状況を踏まえ、判断能力が不十分な本人の主体性や自己決定の本質を問い直し、周囲の人々との関係性に焦点を当てた権利擁護システムを考案するため、現在「関係性の観点から捉え直す『権利擁護』研究-成年後見制度を超えて」(2019年度・基盤C)をテーマに、法学研究者と共に研究を継続しています。

研究指導

私の研究指導で大学院を修了した2名の方の研究内容と“今”をご紹介します。

最初は、社協のプロパー事務局長のリーダーシップ性に着目した福本麻紀さんです。社協の成り立ちを史料から丹念に探り、地域組織化を多角的に探究した点において独創性に富む研究でした。現在は独立型社会福祉士事務所所長の傍らで、NPO法人を主宰し、地域における子どもの問題解決にも幅広く取り組んでいます。著書も出版しており、本学部の社会福祉士指定科目の兼任講師も務めています。(担当科目:福祉ワークショップ・社会福祉援助技術演習1・2)

独立型社会福祉士事務所での福本さん

福本麻紀さん(2015年修了)からのメッセージ
「大学院では,自分が在職していた『社会福祉協議会』が研究テーマでした。社会福祉協議会の歴史を知ることで住民主体の活動から日本の社会構造まで視野が大きくひろがりました。
現在は,子どもの居場所づくり,生活困窮者支援NPO,社会福祉法人に関わり,地域を基盤としたソーシャルワークを行っています。」

次に、当事者の立場でセルフ・エンパワメント研究に取り組んだ関根彩香さんです。関根さんの研究は、一人のしょうがい当事者との語りを素材に、体験を振り返り、当事者同士の邂逅が如何にセルフ・エンパワメントに影響を与えたのかを探究する意欲的な研究でした。関根さん自身、在学中に一人暮らしを実現し、就職するというライフイベントを達成し、研究を継続して修士論文を完成しました。現在は福祉用具の会社で、在宅勤務と出張を併用して活躍しています。

HCR(国際福祉機器展)で説明する関根さん

関根彩香さん(2019年修了)からのメッセージ 「院では女性障害者のエンパワメントに関する研究をしました。現在は商社でコミュニケーションに困難を抱える方の支援に従事しています。 私自身も障害があり、車いすで生活しているので、当事者目線で関わることができたらと思っていますし、障害学生にも多様な働き方を知ってもらい将来の選択肢を広げてもらえたら嬉しいです。」

受験生へのメッセージ

私自身がそうであったように、社会人として働いている方にも、是非大学院の扉を叩いて欲しいと願っています。社会福祉の仕事は、社会に必要とされている重要な仕事ですが、ニーズに対して少なすぎる社会資源、圧迫される財源配分、合理化という名の人員削減、しばしば生じる無理解や誤解等々の厳しい現実と常に隣接しています。

このような状況を転換し、次に進むべく確たる道筋をつけるために、大学院は多くの学問的刺激と新たな発想のきっかけを与えてくれます。とりわけ、社会福祉の分野のみならず、多様な学問に触れることができるコミ福の大学院に、多くの皆様をお迎えできる日を、心から楽しみにしています。