大学教員インタビュー

沼澤 秀雄教授

沼澤 秀雄教授
トレーニング科学、コーチ学

研究内容

私の研究領域はスポーツ科学、コーチング学です。主にスポーツ選手の競技力向上をめざしたトレーニング方法と指導方法について研究を行っています。私は高校時代より陸上競技(短距離・ハードル)に打ち込み、大学では400mHを専門にしていました。日本代表には選ばれたものの国際大会に出場できなかったことが転機となり、指導者と研究者を志すようになりました。そして出身大学の体力測定研究室に嘱託として実習の手伝いをしながら、陸上競技部コーチとして3年間勤務し、また、同じ時期にプロ化したサッカーチームのフィジカルコーチを4年間経験して本学の一般教育部に教員として就任いたしました。そのような経緯から私の専門はスポーツパフォーマンス向上をめざしたトレーニング科学研究になります。現在は、筋肉の収縮様式でエキセントリック(伸張性)収縮によるトレーニングについて基礎的なデータを収集したいと思っています。その他、東日本大震災の発生後には、放射能によって学校に行けなくなり、外遊びができなくなった児童の体格・体力を測定して、狭いスペースでもできる運動プログラムを検討しました。この状況は新型コロナウイルス感染症の拡大による自粛と似ており、身近なトレーニングが健康維持に貢献するということを示すことに応用できるのではないかと考えています。このように、トップアスリートだけではなく子供たち、さらには中高齢者を研究対象としてトレーニングの有用性について研究をすすめていきたいと思っています。

主な研究業績(2点)は以下のとおりです。
LUIS PENAILLLO,ANTHONY BLAZEVICH,HIDEO NUMAZAWA,and KAZUNORI NOSAKA(2013)
“Metabolic and Muscle Damage Profiles of Concentric versus Repeated Eccentric Cycling”Medicine and Scienc in Sports and Exercise
DOI:10.1249/MSS.0b013e31828f8a73 1773-1781
沼澤秀雄、小林敬和、桜井智野風(2019)「児童期におけるバランス、リズム、タイミングを考慮した室内運動プログラム(BRTプログラム)の検証」、『フューチャーアスレティックス』第7号、pp11-17

研究指導

現在、研究室には博士課程後期に1名(スポーツクライミング組織委員会勤務のため休学中)、博士前期課程で2名の院生がおりますが、いずれも大学時代に競技部においてトレーニングコーチとして活動しており、選手のパフォーマンスを向上させるトレーニング手法や動作指標の作成を試みています。
今年度、大学院の授業は担当していませんが、例年は『High-Performance Training for Sports』にある文献について抄読を行っています。トレーニング科学やコーチング理論はスポーツ指導者やスポーツ選手ばかりではなく、すべての生活者にとっても有益な情報が多くありますので、コミュニティ福祉学専攻のどなたが受講しても大丈夫だと思います。例えば、中高年者の身体を動かさなくなって起こるサルコペニアは、筋肉量が減り老化を加速させます。筋肉を減らさないためにはどのような運動が良いのかを考えることは、これからの高齢者福祉にとって重要なテーマになっています。
だいぶ前のことになりますが、研究室の机を院生に奪われ、今も私は共同テーブルにPCを置いて仕事をしております。それというのも私が新座キャンパス外での仕事が多いため、机はいらないだろうと思われたために起こったことです。現在は新型コロナウイルス感染症の拡大によって、院生が研究室に入り浸ることがないため静かな研究室ですが、院生同士の何気ない会話や、教員とのコミュニケーションから研究に繋がるものが見えてくることがあるかもしれませんので、院生室だけではなく、担当教員の研究室も情報収集の場として活用してもらえたらと思います。この状況が収束したら、再び研究室のコーヒーメーカーが活躍してくれるようになることを願っています。

実践的な取り組み

社会的な活動としては、本学部の安松教授、加藤教授とともに日本サッカー協会技術部フィジカルプロジェクト委員を務めており、日本サッカー協会福島アカデミーの選手にランニングコーディネーショントレーニングを行っています。また、日本陸上競技連盟指導者養成委員会の副委員長として陸上競技の指導者養成に関わっています。その関係で、北京体育大学において国際陸上競技連盟IAAF CECS LevelⅠ講師資格を取得したのち、本学の派遣研究員としてシンガポールラッフルズ高等学校の外部講師として部活動指導やシンガポール陸上競技協会の陸上競技セミナー講師をさせていただきました。その時の受講者が、エキセントリック収縮によるトレーニングや翻訳でお世話になっているエディスコーワン大学のNOSAKA教授の研究室に院生として勉強しており、オーストラリアの地で、お互いにどこかで会ったよねと言って再会できたことは陸上競技と研究活動が結びつけてくれた出来事でした。

受験生へのメッセージ

2018年11月にスポーツ庁長官は「科学的エビデンスに基づく『スポーツの価値』の普及の在り方に関する審議について」という課題を学術会議に依頼しました。これを受けて学術会議は委員会を設置し、審議した結果、次のような回答を出しました。これには現代のスポーツ科学に必要な研究者に対するメッセージが含まれていると思いましたので紹介します。

  1. スポーツは心身の健康や体力増強、学習・認知能力の伸長に好影響を与え、医療費抑制などで社会にも寄与する。障害者を含む多様な人々が参画し、画一的ではない実践を促すことが必要。
  2. 科学的根拠に立脚した練習やコーチングにより経験主体のスポーツに高度な合理性を与えられる。一方、研究と応用が人間の選別につながらないよう倫理面の配慮が不可欠。
  3. 競技人口が急増しているeスポーツなど、身体運動を超えた新たな価値に配慮が必要。ゲーム依存の防止策、組織やルールの確立などが急務。
  4. 政策に反映できる科学的根拠の共有が重要。各機関や現場で収集されたさまざまなデータを共有し包括的に分析するため、各省庁や諸機関、学協会などのネットワークを活用する仕組みが必要。

最後に私の研究室で博士前期課程を修了して社会人になっている一人は、現在、埼玉県の中学校で保健体育教諭として働いています。2年間の研究活動で培った探求心や行動力が、部活動の指導や教員としての仕事に生かされているのではないかと思っています。もう一人は大手ディベロッパーに就職して営業をしています。今の仕事が研究活動と直接は関係がなくても、データを分析する作業やそのデータが意味するものを考えることなどは役に立っているのではないかと勝手に思っています。ですから、受験生の皆さんには「研究は生きていくために役に立つ」と言いたいと思います。