大学教員インタビュー

阪口 毅准教授

阪口 毅准教授
地域社会学、都市社会学、コミュニティ論

研究内容

コミュニティの領域性(territoriality)をめぐる問題を、歴史的な視点を持ったフィールドワークを通じて研究しています。「われわれ」と「それ以外」の人間を区別するのは、人類の歴史において普遍的な原理であり続けてきました。これは社会科学の概念で言い換えれば、コミュニティの境界(boundary)と帰属(belonging)の問題ということになります。地域や国家を越えたひとの移動によって形づくられている現代社会では、コミュニティの領域性もまた繰り返し再定義されるものとなっています。
都市社会学や地域社会学のコミュニティ論では、大きくわけて三つのアプローチの研究が蓄積してきました。すなわち、(1)R. M. マッキーヴァーや初期シカゴに代表される制度アプローチ、(2)L. ワース以降の論争の乗り越えを試みたネットワーク論、(3)E. デュルケムを参照しコミュニティの象徴性に焦点をおく構築主義アプローチです。
私はこれらのアプローチを参照しつつも認識論的な還元主義を回避し、コミュニティを3つの位相──制度的(institutional)/関係的(relational)/象徴的(symbolic)位相──の動的連関として分析することによって、特定の時間と空間において生起する複数の「集合的な出来事(collective event)」において、各位相の領域性がどのように変化し、また相互連関しているのかを明らかにしようと試みてきました(阪口 2013; 2015)。

現代社会において、所与の実体として強固な領域性を持つコミュニティは存在しませんが、特定の局面において、三つの位相は一体となり「一時的な体制(temporal formation)」を形づくると考えられます。今後はこうした理論的知見を、複数の歴史社会的条件を持つフィールドとの比較によって検証していきたいと考えています。
とりわけ「強固な実体」と見なされていた前近代社会においても、コミュニティは不変不動ではなく、これらの三つの位相の動的連関として分析されるべきものではなかったのか。担い手が入れ替わったとき、あるいは移動してきたとき、各位相の領域性にはどのような変化がもたらされ、また新たな領域性が生み出されていったのか。そうした変化を促進したり阻害したりする要因は何だったのか。そして何より、人びとの移動性と差異との出会いに対して、私たち人類は、どのように応答してきたのか。いかなる場所においても伏流水のように存在する、あるいは私たちの社会的身体の奥底に刻まれた、コミュニティの水脈を探究したいと考えています。

実践的な取り組み

学部生時代から10年間にわたって研究のフィールドとしてきたのは、大都市インナーシティ、新宿・大久保地域という場所です。「新大久保コリアンタウン」と呼ばれ、マスメディア等でも取り上げられることも多いこの地域は、国内外から繰り返し人口が流入した歴史を持ちます。そのため諸組織・集団のレベルでも、社会関係のレベルでも、場所の象徴のレベル(街並みから語りまで)でも、複数化・断片化が進行してきました。
私はこの場所で1990年代から地域調査と多文化共生の取り組みを行ってきた市民グループの一員として活動しながら、調査研究を進めてきました。シンポジウムや交流イベントの企画運営、商店街やエスニック・ビジネスへの取材活動などを行ってきました。その成果はミニコミの形で、『多文化コミュニケーション情報誌 合本OKUBO』(共住懇、2019年)や『おおくぼ学叢書別冊 大久保老舗ものがたり』(共住懇、2014年)等として発行しました。

現在は、大都市郊外、立川・砂川地域で地元住民の方とともに、元・米軍立川基地拡張予定地に建てられた小屋で砂川闘争の資料館づくりの活動をしています。2019年度には、大学院生たちの手を借りながら、民家の倉庫調査(兼・大掃除)を行い、1950年代~80年代の砂川闘争に関わる貴重な一次資料を発見、保存することができました。今後はこうした資料をもとに、歴史社会学的な手法を組み込んだフィールドワークを進めるとともに、研究成果を資料館に還元するという形で、調査研究と実践を交差させていきたいと考えています。

研究指導

コミュニティ論が専門ですが、都市社会学や地域社会学に関わる領域であれば指導可能ですので、ぜひ一度ご相談ください。方法論的には、フィールドワーク(低関与型/参与観察、ドキュメント分析、インタビュー調査)等を用いた研究であれば指導可能です。
担当科目である「コミュニティ政策研究3」では、コミュニティ論に関わる古典から新古典までの系統的なレビューと輪読を行っています。基礎的な知識から学び直したい方は、学部の講義「現代コミュニティ論」(春学期開講)を聴講することをお勧めします。

本学に着任する前は、大学の論文指導施設で、日本語アカデミック・ライティングの指導を行ってきました。日本学術振興会特別研究員の申請書類の作成に関しても、ノウハウを蓄積していますので、相談に乗ることができます。
大学院に進学する学生たちは、基本的に「知のコミュニティ」の「研究仲間」だと考えています。指導教員の「枠」のなかで小さくまとまるのではなく、自分の「どうしても考えたいこと」「考えずにはいられないこと」を考えるために、未知のフィールドに飛び込んでいこうとする方を歓迎します。そのための助力は惜しみません。

受験生へのメッセージ

冒頭に記した「研究の問い」や方法論は、はじめから明確な形を持っていたわけではありません。卒業論文を入り口に、大学院という自由にものを考えることのできる恵まれた場で、指導教員や先輩、研究仲間たちとともに、社会学の古典や先行研究とぶつかり、議論し、フィールドで出会ったひと・ことがらによって何度も何度も「自分のものの見方」が壊されていくなかで、少しだけ見えてきたものです。
大学院を修了し、どのような道に進んでいくとしても、自分を支え突き動かす「問い」を見つけてほしいと願っています。そのための「余地(room)」が、大学院にはあります。

[参考文献]
阪口毅、2013「『都市コミュニティ』研究における活動アプローチ──大都市インナーエリア・新宿大久保地域における調査実践より」『地域社会学会年報』25、pp.77-91。
阪口毅、2015「『都市コミュニティ』の創発性への活動アプローチ──大都市インナーシティ・新宿大久保地区の市民活動を事例として」『日本都市社会学会年報』33、pp.105-122。