大学教員インタビュー

鈴木 弥生教授

鈴木 弥生教授
社会開発論、国際NGO論、国際福祉論(以上、コミュニティ政策学科専門科目)、Native から学ぶ海外の文化や社会問題(全カリコラボレーション科目、英語授業)

研究内容

研究テーマは以下の通りです。
1. バングラデシュ人民共和国(以下バングラデシュ)で行われてきた日米主導による援助・大規模開発の批判的検討
2. 社会開発(発展)を推進する現地NGO の理念と活動実態
3. グローバリゼーションの批判的検討とそれに伴う移民労働者の増大

S村、スラム内の台所

続いて、調査概要についてお話します。
1.バングラデシュでの研究・調査 1997年~
私が初めてバングラデシュを訪れたのは、1997年の8月です。それ以降、2012年3月まで12回にわたってバングラデシュでの研究・調査を継続しました。
バングラデシュでは、日米主導の援助によって大規模な開発が推進されています。しかし、首都ダカではさまざまな社会問題が起こっています。なかでも、スラムの形成とスラム強制撤去、子どもの労働(特に、雇用主の家庭内に拘束されている子どものメイド)、路上で仕事や生活をしている子どもたち(ストリートチルドレン)の問題は深刻です。それらの発生要因には、農村の貧困が深く関係していることが現地での調査から明らかになりました。すなわち、彼女・彼らの多くが農村からダカに出てきているのです。
調査対象地域として選定したクミッラ県は、独立以前の東パキスタン時代から、アメリカ主導による「コミラモデル」によって農村の近代化が推進された地域です。バングラデシュ独立後は、日本の援助によって、ダカとクミッラ県を結ぶ2つの橋梁建設、そして「モデル農村開発計画」が供与され、対象地域における農村の近代化が推進されました。また、アジア・ハイウェー計画の一環として実施された「ダカと港湾都市のチッタゴンを結ぶ道路拡張計画」がクミッラ県を横断しています。そのために、スラムを形成して生活してきた人々は立ち退きを強いられています。
このような援助や開発のあり方は、農村内のさまざまな格差を拡大する側面があります。そのため、貧困や社会問題が解決せず、貧困層のなかでも、とりわけ貧困女性が周辺におかれている実態が現地での戸別訪問調査や各関係機関での調査から明らかになりました。

S村、BRACのショミティ活動

そこで、現地NGO(Non-Governmental Organization: 非政府組織)であるBRAC(Building Resources Across Communities)やASA(Association for Social Advancement) 、さらにグラミン銀行の活動に貧困女性が参加している実態を調査してきました。これら現地NGOの職員は、農村内に入り、日米主導による援助や開発では周辺におかれてきた貧困女性との対話を重視しています。このような職員との相互作用、そして農村内で伝統的にみられる相互扶助関係を活かしながら、女性たちは草の根レベルでショミティ(≒小グループ)を形成します。このショミティを基盤として行われるさまざまなプログラムへの参加を通して、女性たちは社会問題への関心を高め、自らと家族構成員のウェルビーイング向上を実現していること、また、早婚やダウリー(結婚持参金)等を撲滅しようといった社会問題の解決にも尽力していることが明らかになっています。すなわち、現地NGOが貧困層の参加と内発的発展を引き出し、貧困層が農村内の社会問題を克服し得ることを示し、社会開発(発展)を推進する現地NGOの役割を検証しています。

2.グローバリゼーションの進展に伴う移民労働者の増大
(1) 湾岸諸国での調査 2010年10月~
モデル農村開発計画が実施されたクミッラ県ダウドゥカンディ郡のS村で、10年以上にわたって戸別訪問調査を継続してきました。その中のある世帯の二男が、大学を中退して出稼ぎに行ったと聞いて衝撃を受けました。そのうえ、出稼ぎ先での仕事や生活については、両親に知らされていませんでした。そこで、この成年と会って現状を知るために、アラブ首長国連邦(United Arab Emirates、 以下UAE)に数回出向きました。彼の仕事は命綱をつけて作業を行う高層ビルの建設労働で、炎天下での長時間労働を余儀なくされています。この成年以外にも、バングラデシュから出稼ぎに来ている人たちが女性も含めて多く存在しています。それ以降「移民労働は貧困や社会問題を解決できるのか」という関心を持ち、オマーン、カタール、モルディブ、ブルネイにおいて、バングラデシュ出身者を始めとする移民労働者から聞き取り調査を行いました。

Phot by K. Sato

(2) ニューヨーク市での研究・調査 2010年3月~
2010年3月、ワシントン議会図書館での資料収集を終えて、ニューヨーク市に出向く機会がありました。国連本部近くの歩道の上、日陰に設けられた露店で、バングラデシュの大学を卒業したひとりの成年が果物や野菜を売っていましたが、自分の店ではないといいます。また、ミュージカル劇場が集中するブロードウェイの周辺には、観光客を見込んだ多くの土産店があります。その店先で、2010年当時、2枚10ドルでTシャツを販売していた男性店員もバングラデシュ出身者でした。彼は、バングラデシュの大学を卒業して母国でエンジニアとして働いていましたが、もっと条件の良い雇用機会を求めてニューヨーク市に移動してきました。しかし、彼が希望していた専門職には就くことが出来ずにいます。
華やかで賑やかにみえるニューヨーク市には、多くの移民労働者の姿があります。こうした実態をより明らかにするために、2012年以降今日に至るまで、毎年ニューヨーク市に滞在して調査を継続しています。また、2017年度はコロンビア大学の客員研究員として1年間ニューヨーク市に滞在し、さまざまな研究会やイベントに参加する機会を得ることができました。そのなかで、もっとも印象に残っているのは、アマルテアィ・セン教授による座談会です。

研究成果の一部は、以下をご参照ください。
鈴木弥生『バングラデシュ農村にみる外国援助と社会開発』日本評論社、2016年
拙本は、西川潤教授のご指導でまとめあげることが出来た博士学位論文「バングラデシュ農村における援助と社会開発――クミッラ県にみる居住者ヘのインパクト」(序章と終章を含む7章構成)を圧縮し、なおかつ、それ以降の研究・調査内容も含めて大幅に加筆・修正したものです。
関連するホームページはこちらです(コミュニティ福祉学部の鈴木弥生教授が国際開発学会奨励賞受賞)。
https://www.rikkyo.ac.jp/news/2018/01/mknpps000000czw1.html
http://cchs.rikkyo.ac.jp/topics/2018/3872/

続いて、以下の拙論は、先行研究やデータの分析、そして、ニューヨーク市で行ったバングラデシュ出身者からの聞き取り調査に基づきまとめたものです。
Yayoi Suzuki, Kazuhiko Sato and Zane Ritchie (2017) A Study of the Living Conditions of Bangladeshi Migrants in New York City, Journal of the Institute of Community and Human Services, Rikkyo University, Japan, Vol.5, pp.69-89.
Yayoi Suzuki and Zane Ritchie (2019) A Study of the Living Conditions of Bangladeshi Women Migrants in New York City, Journal of the Institute of Community and Human Services, Rikkyo University, Japan, Vol.7, pp.35-56.

1999年以降の現地調査と資料収集(2010年のUAEでの調査を除く)は、7回に及んで採択されている文部科学省科学研究費(研究代表者、鈴木弥生)によるものです。最新のテーマは「ニューヨーク市におけるバングラデシュ出身の移民:移民第二世代の生活実態調査」(2018~2021年度予定)です。

研究指導

私が担当している大学院生の研究テーマは「持続可能な社会のあり方-バングラデシュにおける現地NGO:BRACの理念と活動に着目して―」です。ここでは、「持続可能な社会」「先進諸国主導による援助と現地NGO」「意識化からエンパワメントへ」「ウェルビーイング」を分析の枠組みとして設定し、多くの先行研究の検討を行っています。現在、新型コロナウィルス禍にあって、予定していた現地調査が困難になっている学生もいると思います。現地での資料収集や調査が必要な学生たちは、焦ることなく、できるだけ多くの文献にあたって理論研究を行ってもよいのではないでしょうか。

ゼミナール:Think Globally, Act Locally
(地球規模でとらえ、足元で行動する)

貧困や紛争の発生要因、途上国における子どもの労働、途上国の貧困層と我々との関連性、グローバリゼーションの進展に伴う移民労働者の増大、社会開発の推進媒体としての現地NGOの役割について学びます。学生生活を有意義に過ごすためにも、地球規模での社会問題とそれらの発生要因、そして、学ぶことの大切さや楽しさを知ってほしいと考えています。また、国際規模での社会問題を当事者の声を通して学ぶために、海外にルーツを持つ方を演習にお招きしたり、英語授業を展開したり、講演会を企画したりしています。

受験生へのメッセージ

自由の学府・立教大学の建学精神に基づき「真理を絶えず探求する旅人」となって、コミュニティ政策学研究科でともに学んでみませんか。